2008年7月4日金曜日

エナペタルダンパーが与えてくれるもの。

ENNEPETAL/BILSTEIN

走りを極めていくと、ある日を境にドライバーの能力がマシンの性能を超える瞬間が訪れる。

人間は日々進化していくが、SF小説ではないので機械が自然と進化していくことはない。ここでいうマシンの性能とはエンジン、サスペンション、駆動系などを指すが、それぞれの単独の性能よりも大切なことがある。それが各パーツの織り成す「バランス」である。エンジン、サスペンション、駆動系それぞれの性能が理想的なバランスを保つマシン作りをすることがもっとも大切なのだと思う。

ハイパワーエンジンに貧弱なサスペンションではその力を路面に伝えることはできない。LSDやクラッチなどがパワーに適していなければタイヤから白煙が出るだけで車は前に進まない。それぞれの部品が、適切なバランスを保って機能していることがとても大切。適切にセットアップされたローパワーのマシンがハイパワーのマシンを凌駕する構図も、こんなところに秘密がある。

アールエスタケダラリーチームジャパンから全日本ラリー選手権に参戦する新型シビックRのセッティングが、社内で日々行われている。それでは、ここでいう「セッティング」とは何を指しているのか。我々が勝つためになにをしているのかについて、少しだけお話したいと思う。

全日本選手権は国内モータースポーツのトップカテゴリーであり、最高の技術を持ったドライバーが高度にセットアップされたマシンを駆って戦うステージである。ダートトライアルやジムカーナでは千分の一秒あるいはそれ以下の僅差で勝負が決し、クラスによっては1位から6位の差が0.5秒以内であることも珍しくない。ラリーでは2日間に渡って10を越えるステージを走行し数百キロを走りきった選手のタイム差が1秒もないこともある。

異なる車種で、違うメーカーのタイヤを履き、それぞれ別の選手が乗ったマシンがほぼ同じくらいのタイムで走行してしまう。一見不思議な感じであるが、これはそれぞれの選手がいかに限界ぎりぎりの走りをしているかの証左である。

マシンと路面は4本のタイヤで接しており、その面積は官製はがき4枚分ほどしかない。この僅かな面積にいかに効率よくパワーを伝え、コーナーでは以下に長い時間グリップを維持するか。この2点にセッティングの目的は集約される。

グリップの高いタイヤを履くと、タイムアップするという定説がある。もちろんこのこと自体は間違っていないし、直接路面に接しているのだから論理的には正しい。しかしながら、Sタイヤに替えたのにタイムアップしないと悩むドライバーがいることも確かである。タイヤにはそれぞれ特性があり「使い方」がある。このことはまたの機会にお話するが、なによりも大切なのは前述した「バランス」である。

我々はマシンのセットアップをしていくうえで、走行タイムをひとつの基準としている。なにしろ速く走ることが大命題でありこの部分を外しては、いかなるセットアップもその意味を持たない。そして「速く」走ることができるマシンなのかどうかを判断するのがレーシングドライバーの役割。

マシンのセットアップを進めていく上で「速く」走れているか否かを判断するのは常にドライバーの持つセンサーであり、ドライバーからのフィードバックを元に車高や、デフのイニシャル、サスペンションのストロークを決定し、タイヤの空気圧を決め、セッティングを進める。より優秀なドライバーと組んで仕事をすることは勝てるマシンを作り出す上で欠かせない要素である。

それゆえサスペンションには高いレベルが要求される。サスペンションが優秀であることは全てのマシン作りにおいて絶対条件。サスペンションはタイヤのグリップを受け止め、刻々と変わる路面状況においてエンジンのパワーと右に左に荷重変化する車体を支えている。サスペンションの能力に応じてタイヤのコンパウンドや進入速度、ブレーキのチョイスを決めている部分は大きい。

新型シビックの車載ビデオをデビュー当時から2戦続けて見比べていただければ(以下の動画)一目瞭然だが、サスペンションのセットアップが進化してゆくにつれロードホールディング性が向上し、ステージタイムも総合順位も上がる。そしてドライバーがアクセルを空けている時間が長くなりアベレージ速度は高まっていく。






















接地性能が向上すればLSDの効きを上げていける。速い速度でコーナーへ進入できるようになればブレーキの能力に対するリクエストも高いものになる。

こうした我々の要求に常にリアルタイムで応えてくれるのが、ビルシュタインのチューナーであり、ドイツのビルシュタイン社からも絶大な信頼を受ける「エナペタル社」である。2005年のWRC/ラリージャパンでの優勝も、昨年の全日本ラリーにおける初優勝もエナペタルダンパーなしでは成し得なかったことは間違いない。こうした試行錯誤を重ねてシビックのサスペンションもランサーのサスペンションも極めて高いレベルに達している。そして、このことを実証する唯一の方法が我々がトップカテゴリーで勝利を獲得することなのだ。

まもなく、全日本ラリー選手権は後半戦に入る。参戦を予定しているターマックステージは3箇所。この全てで望む結果を得るために、チームは妥協することなく全力を尽くしていく。









0 件のコメント: