2007年2月24日土曜日

前回からの続き

車のトランクに手をかけて植木と車の隙間から這い出した私は、少し広い空間に出た。
足先にブロックのようなものが当たる感触。

たぶん車の輪留めのようなものだろう・・・まだしっかりと目が開かないまま、しばし立ちすくむ。
無理に目を開けてみる。

右の方向から明るいライトの光が近づいてくる。さっき通過した車とは違う排気音。
目線をそちらへ向けると、やたらと眩しい。

車はライトを点けたまま停車しているようである。もちろん逆光になっていて誰だかも何の車なのかも定かではない。不安な気持ちとともにほんの少しの苛立ちを覚える私。

エンジンをかけたまま、その車は停車したままである。
さっきよりは目が開いてきた。ドアの開く音がして誰かが降りてきたようである・・・とはいえライトの光が眩しくてよく見えない。

悪いやつだったらどうする・・・? 強盗の類であれば、ただではすまないだろう。
不安な気持ちが増大する。

近づく人影はライトの光の中をこちらに向かって歩いてきているようだ。車内にバッグが置いたままのような気がする。確か財布も入れたままだったはずである・・・・まずい・・・

あわててもとの方向へ戻る。車内に逃げ込もうとするのだが、気ばかりが焦ってからだが思うように動かない。近づく人影の気配はますます近づいてきている。

思うようには進めずにいると、足元の茂みに足を取られて後ろ向きに激しく転倒した。
背中に、ざくざくと固い木の枝の感触を感じる。

人影は、小走りに近づいてきた。
なんだかもうどうでもいいような気分に包まれ助けを呼ぶ気力もない・・・助けを呼んだところで、こんな深夜に周囲に人がいるとも思えない。

と、突然強く手を掴まれる感触。正体不明の人影はいつの間にか私のすぐそばに来ていて植木の中でもがく私に手を差し伸べてきたようである。

白髪の初老の男性であることが近くまで来てわかった。

うっすらと見えるその人影は困りきったような表情を浮かべている。
「誰・・・?」

その人物が誰なのかが理解できた瞬間、猛烈な恐怖が全身を包み私は飛び起きた。
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自室のベットの上で上半身を起こして目覚める。
心臓が早鐘のように打っている。

急激な覚醒に意識が追いつかず、まだ頭がぼんやりしている・・・

「夢か・・・・」

もちろん今過ごした時間が夢であること自体は理解しているのだが、なぜこんな奇妙な夢を見るのだろう。うまく回らない頭であれこれ考えてみるが、そもそも夢に整合性があるはずもなく納得行く答えなど得られるはずもない。窓の外は薄暗くなってきている。夕方は過ぎているようであり、夜の入り口に差し掛かったところか。

なんだか手を掴まれた感触が残っているようで気分はあまりよくない。

洗面台に行き、冷たい水で顔を洗った。
鏡に写る自分の顔を見つめていて先ほどの夢の顛末に確信を持った。

私の手を掴んだ初老の男性は、たぶん間違いなく私自身であった。
年を重ねているため皺も多く、髪の色も違ったがそれは自分自身だったのだ。


なぜ?

妙な夢の世界から現実に引き戻されるように、部屋の片隅に置いた携帯電話から呼び出し音が響く。

電話に出なくては・・・・でも、なんだか受話器の向こうから自分自身の声が聞こえてきそうで私はしばらく洗面台の前から動くことができなかった。



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